2024/04/10
目次
百日咳とは?症状や治療方法、ワクチンについて解説
風邪かと思いきや、咳が思っていた以上に長引いて不安になった経験は誰しもがあると思います。
咳が長引いているのは他の病気のサインかもしれません。
疑うべき病気の一つとして、百日咳が挙げられます。
この記事では百日咳とはそもそもどのような病気か、症状や予防方法まで解説していきます。
百日咳について正しく理解し、万が一かかってしまった場合に参考にしていただければ幸いです。
是非最後までお読みください。
百日咳とは
百日咳は、特有の痙攣性の咳が特徴の急性呼吸器感染症です。
咳が治まるまで約100日間(3ヵ月程度)続くことが病名の由来になっています。
ワクチンの普及とともに感染者数は減少してはいますが、世界各国でいまだ多くの流行が発生しています。
百日咳の症状
百日咳はカタル期と痙咳期と回復期という3つの主な段階があります。
カタル期は1〜2週間目の初期段階を指します。
最初はただの風邪のようですが、咳が徐々に強くなっていきます。
痙咳期は、息を吸う時に笛の音のようなヒューという音(Whooping)を伴う激しい咳発作(staccato)特徴であり、乳児の患者では無呼吸発作を経験することになります。
この時の期間は2〜3週間目が目安となります。
回復期になっても、気道の過敏性が残り、咳こみ嘔吐を伴う発作様の咳が数か月続きます。
詳しい症状は以下が挙げられます。
- 夜間の咳
- 特徴的な咳 Whooping、staccato
- 咳込み時の嘔吐
- 顔面の浮腫
- 目の充血
百日咳の治療法
百日咳の治療法には、百日咳菌に対する治療と咳に対する治療があります。
百日咳菌にはマクロライド系抗生薬が用いられます。
百日咳は、百日咳菌から出される毒素が原因となりますので、毒素の活動がおさまるまで待つ必要があります。
抗生剤は除菌することは可能ですが、毒素に対しては効果がありません。
後述する、ワクチンによる予防が重要になります。
咳には鎮咳薬や気管支拡張薬などを用いますが、睡眠障害や摂食障害がある時は、入院加療が必要な時があります。
百日咳の流行状況
ここからは定点把握疾患から全数把握疾患に変更になった2018年から2022年の東京都の報告数を元に流行状況を見ていきましょう。
百日咳報告者数の推移
一目でわかる通り、百日咳に感染した方はここ数年のうちでも大きく減少しました。
2018年には2000人を超えていましたが、2022年には55人と2桁も感染者を減らすことができました。
2019年から2020年の間に大きな差があるのは、コロナ禍が影響していると考えられます。
今後、コロナ禍後に百日咳の流行が起きる可能性も考えられます。
百日咳の年齢階級別・性別報告数
上記のグラフは2020〜2022年の感染者を男女・年齢別でみたものです。
一見少なく見えますが、0〜9歳は3つの軸に区切っているため、足して考えるとやはり幼少期の感染率が高いことがわかります。
また、20歳以上の年齢層では男性より女性の感染率が高いです。
百日咳のワクチン
百日咳には効果的なワクチンが存在します。
百日咳は百日咳菌が産生する毒素(Toxin)によって病気が発症します。
百日咳はToxin-mediated diseaseとも言われ、毒素に対する抗体により発症を防止できるために、百日咳ワクチンは、百日咳(PT)毒素と接着因子(FHA)毒素に対する免疫を獲得する成分が主体となっています。
副作用や持続期間について説明していきます。
ワクチンの進歩
百日咳ワクチンは1950年に開始されました。
当初は全身反応が強く現れ、全菌体型ワクチン(whole cellular vaccine)が用いられましたが、感染防御抗原を抽出した、無細胞型ワクチン(acellulelar vaccine)が使用されるようになりました。
1958年にはジフテリアと呼ばれる、咽頭や喉頭に支障をきたす病気との二種混合ワクチンが使われるようになりました。
さらに10年後の1968年にはさらに破傷風を加えた三種混合ワクチンが広まりました。
2012年にはさらにポリオ(脊髄性小児麻痺)ワクチンも加えた四種混合ワクチンが日本で普及しました。
その後、学生や成人での百日咳の流行があり、定期接種後の追加接種が行えるように、三種混合(DPT)ワクチンが使用できるようになりました。
2024年4月からは、ヒブワクチンを含めた五種混合ワクチンも導入されました。
欧米で行われている小学校入学前や11-12歳のDPTワクチン接種が行われていない状況では、4回目の接種は、3回目から12か月以上あけた1歳6か月で接種することが望ましいと考えます。
五種混合ワクチンについては、以下の記事で紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
接種スケジュール
生後2ヵ月〜12ヵ月の期間に20〜56日までの間隔をおいて3回になります。
3回目の接種を行ってから6ヵ月以上の間隔(標準的には12ヵ月〜18ヵ月の間隔)をおいて1回の追加接種が推奨されています。
乳児期早期での百日咳の罹患は重症化するリスクが高いため、2023年4月から生後3か月からの開始だったものを、生後2か月からの開始と変更されました。
副作用
1981年の改良後、副作用が少ないものとなりました。
現在は注射部位の発赤・腫れ・しこりなどの局所反応が一般的です。
ごく稀に上腕が腫れる方がいらっしゃいますが、湿布を貼ることで落ち着きます。
発熱症状も基本的にはありません。
有効期限
百日咳のワクチン効果は4〜12年のうちに減少していきます。
接種した方も時間経過と共に感染率が上がります。小学校や高校、大学、成人の方でも百日咳の罹患者がおられます。
ワクチン接種をしている人は軽症化するため、典型的な症状を示さなくても、百日咳菌に感染していることが多いです。
欧米では、小学校に入る前と、11-12歳(日本のDT2期接種に相当)で、DPTワクチンを接種しています。
今後、日本でも導入されることを期待します。
妊娠中の接種も可能
妊娠中のワクチン接種は安全なのかと心配な方もいるかもしれませんが、こちらは問題ありません。
むしろ、特に海外の方では推奨されています。
ワクチンは生後2カ月からしか接種出来ないのに対して、重症化リスクが最も高いのは、生後0〜5カ月であるため、接種前にかかる可能性が生じます。
実は胎児はお母さんから胎盤を通じて免疫(抗体)を受け取り、それが2カ月程度続きます。
母子免疫を利用したコクーン戦略といい、コクーンは「cocoon(繭)」という意味で、守りたい人の周りに防御の繭を作るイメージです。
このことから赤ちゃんが生まれる前にお母さんが接種する方が良いとされています。
イギリスやアメリカでは既に妊婦への接種の安全性を確かめる研究も行われています。
下記は国ごとの接種推奨期間です。
- 米国:妊娠週数27~36週
- 英国:妊娠週数28~32週
- ベルギー:妊娠週数24~32週
- ニュージーランド:妊娠週数28~38週
- オーストラリア:妊娠週数29~32週
- 韓国:妊娠週数27~36週
百日咳はうつるの?
百日咳は最初に感染症と話した通り、百日咳菌の感染で起こり、ほかの人に感染します。
ではどのように感染するのでしょうか。
また、予防する方法はあるのか確認しましょう。
百日咳の感染経路
感染経路としては2つ挙げられます。
まずは飛沫感染です。
患者の咳やくしゃみを吸い込むことにより感染します。
次に接触感染です。
咳やくしゃみで汚染された手指、器物などを介して感染します。
百日咳の感染予防
基本的ですが重要な予防方法として、うがい・手洗いをしっかり行うことがまず挙げられます。
常に清潔を保ち、感染者が触れたものは出来るだけ共有しないようにしましょう。
また、追加のワクチン接種がおすすめです。
赤ちゃんだけでなく、接種してから時間の経つ学生や成人は再度行うことで免疫をつけることが望ましいです。
大人の百日咳
いままでもお伝えしましたが、子どもより発症率が低いものの、大人も百日咳に感染します。
症状の違いや気を付けるべきことをご説明します。
大人の症状
子どもの感染に比べて、激しい咳発作があまり見られません。
個人差がかなりあり、自然と治まる場合もあれば、強い咳が続く場合もあります。
症状が軽く済んでも発症から約2週間のカタル期が最も感染力が強いことは大人が感染した場合でも変わりません。
そのため、単なる咳だと思い込んでそのままにしてしまった大人が、重症化しやすい子どもへと感染を広げてしまうことが問題視されています。
2007年の大規模感染
感染率が高いのは子どもだから、ワクチンがあるから、と大人だから大丈夫と思っている方もいるかもしれません。
ですが、ワクチンが既にある2007年、四国の2大学で百日咳が大流行しました。
どちらも医学部の学生から感染拡大したと思われ、医学部および付属病院職員にも広がりました。
その時は早期検知、治療、予防的投薬および積極的疫学調査などの適切な対応がとられ、2次感染による患者さんの発症者は無く、幸い新生児病棟等への拡大もありませんでした。
これらの事例から、小学校入学前にDPTワクチンを任意接種で行うことと、11歳から12歳のDT2期での接種に変えて、DPTワクチンを任意接種で行うことが推奨されます。
ただし、欧米で使用されている年長者用のTdapワクチンは日本では国内で承認されておらず、DPTワクチンを利用することになります。
百日咳のまとめ
ここまで百日咳についてお伝えしてきました。
百日咳についての要点をまとめると以下の通りです。
- 百日咳とは特徴的な咳が長引く、呼吸器感染症の疾患のことです
- 百日咳の治療方法は抗菌薬の継続服薬や充分な休息と水分補給
- 百日咳を予防するには日々の手洗い・うがいとワクチンが効果的
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
- NIID国立感染症研究所 ”百日咳とは”
- 東京都感染症情報センター “百日咳の流行状況(東京都 2018年)”
- 山口県感染症情報センター “予防接種の基本”
- 厚生労働省 “百日せき”
- NIID国立感染症研究所 ”海外の妊婦への百日咳含ワクチン接種に関する情報 IASR Vol. 40
- 日本小児科学会 各種活動
- 予防接種に関するQ&A集 2023,一般社団法人 日本ワクチン産業協会 p.143-171