2024/06/07
目次
RSウイルス感染症は全員感染したことがある?症状や予防について解説
RSウイルス感染症は小児の日常感染症の一つです。
コロナ禍で感染症のニュースが度々報じられているため、最近知った方もおられるのではないでしょうか。
RSウイルス感染症は以前、冬にピークを迎えていましたが、近年は夏始めに増加したため、常に注意する必要があります。
コロナ禍の前後で、季節性の流行が変化しているように思われますが、3年間の自粛生活の影響かもしれませんし、冷房などの環境の影響で流行状況が変化したことかもしれません。
更には、感染症の迅速検査や遺伝子検査が普及し、これまでとは違う知見が生まれているのかもしれません。
そこで本記事ではRSウイルス感染症について、以下の点を中心に解説します。
- RSウイルス感染症とはどのような病気か
- RSウイルス感染症の症状・治療
- RSウイルス感染症と似ている病気の見分け方
- シナジス注射
- 妊婦へのRSウイルスワクチン接種
RSウイルス感染症について正しく理解し、参考にしていただければ幸いです。
是非最後までお読みください。
RSウイルス感染症とは
RSウイルス感染症とは、RSウイルスによる感染症で、呼吸器感染症を引き起こします。
RSという名前はRespiratory Syncytial という名称を略したもので、Respiratoryは「呼吸器の」、Syncytialは「合胞体(Syncytium)」を指します。
RSウイルスは何度も繰り返し感染するウイルスであり、一度感染しても再度感染する可能性が大いにあります。
乳児期の初回感染時に肺炎を起こすなど、問題になりやすいです。
しかし、乳児期以降は免疫を獲得すると、軽症化し、体力も備わり肺炎に至ることは少なくなります。
ただ、喘息の体質がある人が感染すると喘鳴が強くでるなど、喘息発作の問題にかかわります。
成人は、鼻かぜ等の感冒の原因になります。
感染症に関する法律では、5類感染症に指定されています。
非常に感染力が強く、保育園などでは施設内感染に注意が必要です。
過去の実例として、保育園や幼稚園、老人ホームでの集団感染があります。
RSウイルス感染症の流行状況
RSウイルスの感染者を年ごとや年齢ごとにわけてみることで流行状況を知ることができます。
今回はグラフを元に説明していきます。
年別RSウイルス感染者数
(グラフ引用:RSウイルス (2023年7月26日現在報告数)週別診断名別分離・検出報告数 2007~2023年)
上記のグラフは国立感染症研究所が発表した感染者数の人数を元に2019年〜2023年の感染者数をまとめたものです。
2020年のみ感染者数が減少しているのは、コロナ禍が影響しています。
RSウイルス年齢別感染者数
上記のグラフは国立感染症研究所が発表した2024年第1〜15週の年齢別感染者数を表したものです。
乳幼児が多くかかっていることが一目で分かります。
0〜2歳までが80%以上を占めています。
RSウイルスの感染・予防
RSウイルス感染症にならないために出来ることはあるのでしょうか。
ここからは事前にできる対策についてご説明します。
RSウイルスの感染経路
RSウイルスの感染経路としては2つ挙げられます。
1つ目は接触感染です。
感染している方との直接的な接触や、感染者が触れたものを共有したりすることで感染します。
2つ目は飛沫感染です。
咳やくしゃみ、会話の際に飛ぶ飛沫を浴びることで感染します。
咳エチケットやマスク着用などの感染防止対策が出来ます。
RSウイルス感染症の症状
通常の風邪と変わらず、発熱や鼻水が数日続きます。
潜伏期間は2〜8日間です。
感染した乳児の3割は悪化し、「ゼェーゼェー」「ヒューヒュー」と喘鳴を伴った呼吸困難症状が現れます。
元々基礎疾患のある乳幼児は重症化リスクが高いです。
RSウイルス感染症の予防方法
基本的ですが重要な予防方法として、うがい・手洗いをしっかり行うことがまず挙げられます。
常に清潔を保ち、感染者が触れたものは出来るだけ共有しないようにしましょう。
また、呼吸器の症状がある場合は症状がある方も周囲の方もマスクをする必要がありますが、乳児にマスクをしてもらうのは難しいです。
RSウイルス感染症になったら
もちろん予防をしても、100%かからないという保証はありません。
もし、かかってしまった時のために、対処法を覚えておくと良いでしょう。
受診の目安
普段の様子と変わらないようでしたら、そこまで焦る必要はありません。
慌てず、かかりつけ医にご相談ください。
しかし、咳がひどい、食事が困難であったり、ぐったりして元気がない場合は医療機関への受診をお願いします。
RSウイルス感染症の治療法
RSウイルス感染症の治療方法や薬は対症療法での対応になります。特効薬はありません。
咳や熱が治まらない場合は去痰薬や解熱薬を使用すると楽にはなるでしょう。
肺炎や中耳炎が合併したら、抗生剤治療を行います。
大部分の人がかかるって本当?
100%というと大袈裟のように聞こえますが、本当です。
生後1歳までに50%以上、2歳までにはほぼ100%の人が1度はかかります。
初めての感染は症状が重くなりやすいです。
パリビズマブ(シナジス)注射
早産児や、先天性心疾患の病気を持つ子、白血病などの悪性疾患や免疫抑制剤の治療中の子がRSウイルスに罹患すると、非常に重症になり、中には命を落とすこともあります。
RSウイルスの抗体を抽出して製造されたバリビズマブ(シナジス)という注射を用いて、受動免疫を付与する治療法があります。
RSウイルスの流行期に、毎月筋肉注射を行います。
基本的に、1回のシーズンで7回の注射が保険適応されています。
生まれた週数やシャントを持つ心疾患、ダウン症児など適用となる病態があります。
妊婦に対するRSウイルスワクチン(アブリズボ)
乳児期早期のRSウイルス感染症を予防するために、出産前に母体にワクチン接種を行います。
母体側で免疫を活性化・誘導して抗体を産生し、母子免疫の移行抗体として生まれてくる子をRSウイルス感染症から守るという狙いです。
この考えは「コクーン(coccun : 繭)」ワクチン戦略と呼ばれます。
移行免疫を利用しますので、在胎24-36週、特に28-36週での接種が推奨されています。
2024年5月31日に、日本で発売になりました。
現在の所、区等からの助成は無く、任意接種になります。
まとめ
ここまでRSウイルス感染症についてお伝えしてきました。
RSウイルス感染症ついての要点をまとめると以下の通りです。
- RSウイルスは乳児で肺炎を起こす代表的な呼吸器感染のウイルスのひとつ
- RSウイルス感染症に対する、有効な抗ウイルス薬は存在しない
- RSウイルスは早産児、先天性心疾患、ダウン症などのリスクの高い群に対して投与できる薬がある
- 妊婦に対するRSウイルスワクチンが利用できるようになった。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参照文献
厚生労働省 “RSウイルス感染症 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について”
NIID国立感染症研究所 ”IDWR 2012年第36号<注目すべき感染症>RSウイルス感染症”
NIID国立感染症研究所 “IDWR 2024年第15号<注目すべき感染症> RSウイルス感染症”
厚生労働省 “RSウイルス感染症Q&A(令和5年9月28日改訂)”